好奇心と憧れ。かけがえのない人たちとの出会いが、いつだってわたしたちの感性を刺激する。だから、また、誰かを好きになる。Kastaneが恋する、イノセントで魅力的なひとたち。第2回はUNCINQ -vintage & handwork-店主の、平野 みかほさん(後編)。
2020.10.01Aoi Yoshida (Kastane Press)
CONTRIBUTED BY
MIKAHO HIRANO
UNCINQ -vintage&handwork-
Shopkeeper
Q.UNCINQ -vintage&handwork-の開店はいつ頃ですか?お店誕生のきっかけは?
2014年6月です。お店を持つことを自分の夢と決めたのは10歳の頃でした。当時、「ご近所物語」という漫画を愛読していて、完全に影響を受けていました。主人公の名前が「みかこ」と言う名前で、私の名前は「みかほ」だったので、勝手に親近感が湧き、強く憧れていました。子供ながらに熱い決意というか、将来の夢が決まった瞬間のワクワクを今でも覚えています。
Q.読み方は、アンサンクですよね。
はい。フランス語の1と5を合わせた造語でアンサンクと言います。昔から一期一会という日本の独特な思想に運命的なものを感じていました。両家の祖母が伝統芸の師範なのもあって、知らずとそういった日本特有の環境に染まって育ったからかもしれません。出逢った人やその日何気なく選んだものに、ふとした瞬間に、「ありがとう。」と感じたり、「これは運命だー」と興奮したり。私の中で「一期一会の出会い」という目に見えない感覚が時間をかけて少しずつ膨らみ、いつの間にかとても大きな軸となっていきました。私自身がこの人生において大切にしていきたいテーマでもありますね。
Q:なるほど。
UNCINQ -vintage&handwork-の肩書きはヴィンテージショップですか?
私のお店の商品のほとんどは様々な異国から集めたもの達で主にアンティーク・ヴィンテージ品が店内の8割、手仕事品が2割の展開となるので、総合的に考えるとヴィンテージショップかなと思うのですが、「セレクトショップですね」という人もいれば、ヴィンテージショップって言って下さる人もいる。「色んなものが混在していて謎のお店ね」と言うお客様もいらっしゃいます(笑)。私自身もはっきりしたジャンルは分からない。だから、お客様がそれぞれ思うままに感じ、呼んでいただけたら嬉しいですね。
Q:今のお店の店舗・商品構成は最初から決まっていましたか?
概ね決まっていましたが、今のような女性らしい店内に変化していったのは、オープンして2年後の冬から。“人の手で作られた温もりある作品”を扱いたいという気持ちからお店作りが始まって、結婚や出産を経て、キッズアイテムや花器などが徐々に増えていき、それと同時に女性性も強くなっていきました。取り扱うアイテムが私自身の年表になるほど、私の感性や人生を反映していると思います。内装は元々シンプルで、いいアイディアが浮かんだらその都度手を加えて変えていく、の繰り返しでした。きっちり決めていく事が苦手なので、その時々で訪れる閃きや偶然に身を任せながら、変化を楽しんでいます。
Q:ハンドメイド品を扱いたいと思ったきっかけは?
幼い頃から創作活動が好きで、元々物作り精神みたいなものは強かったと思います。なので私自身、学生の頃は染色やデザインなどの「表現」を学んでいました。 同じ材料でも、人それぞれ見えている先の景色が違くて、終わりも自分で決める。“作品”として形になった時、説明しなくてもどこかその人らしさが感じられたり、不思議と温かみが伝わってくる。その感覚にすごく惹かれるし興奮するんです。多感な時期に色々な分野のデザインや表現を自由に学ばせてもらった事で、手作りという行為は、「とても愛すべきことで自己表現でしか存在出来ないもの」だと気付かされました。自分自身の中の深い部分と向き合い、思いを込めて作った作品は自分自身にも力強いパワーを与えてくれると思います。ファッションに興味があったことが相まって、いつか「手仕事から生まれるかわいいもの」を自分らしい表現で伝えられたら..と思い続けていたのがきっかけですね。一点ものの古着が好きになったのもこの頃からです。
Q:お店を開くために一番取り組んだことは?
接客ですね。私は自分で洋服を買う時も決断が早い。欲しいものが見つかるのも早いタイプ。「人」と関わることは大好きだけれど、初めて会う人と「かわいい」を共有することが、当時の私には難しくて。でも、お店を開くなら「接客」を避けては通れないという現実的な問題は、進路を考える19歳頃の私にもなんとなく理解出来ていたので、とにかくやるしかないという気持ちでアパレルのアルバイトを始めました。働かせていただいたブランドは、関東に初出店した店舗だったこともあり、内装の段階からリアルな店舗作りを学ばせていただいた事はとても大きな学びでした。オープニングスタッフとはいえアパレル未経験な私に、フィッティングに絵を描くなどの重要な事をさらっと提案する元上司の考え方が衝撃的で。今でも、肩書きや年齢関係なく自由に誰かと関わり合える元上司の考え方は尊敬していますし、私もそうで在りたいと思っています。
Q:接客を通して、学んだ事は?
「モノや人の魅力を伝えるものは、外見のお洒落でなく自分の中の熱い思い。」 お客様をブランド色に染めたいわけじゃない。ただ、お客様の思う「かわいい」を大切にしたいだけ。接客の経験を重ねていく毎にお客様の好みは何となく統計的になり予想出来るようになってきましたが、人の数だけ多様多種な「かわいい」がありますよね。接客の根底を見つめ返すと、初めましての方と同じものを「かわいい」と思えるのって、言い方が大げさかもしれませんが、奇跡に近いなと思うようになりました。「自分自身が熱い気持ちでお客様と向き合っていれば、全身ブランドの服を身にまとっていなくてもブランドを好きになってもらえる。」そんな事に気づきだしてから、スッと肩の力が抜け、初めましての方の人柄に興味が湧き、お客様との「かわいいの共有」が楽しくなってきたんです。接客業を卒業する頃には、接客というより、自分らしいお客様との向き合い方の輪郭を得られたように感じます。
Q:いつも買い付けは1人で行かれるのですか?
はい、基本的に1人ですね。その時、直感的に行きたいと思った場所に自由に行くのが私には合っているなと思うので目的地もいつも決まっていません。勿論、何度も足を運ぶ国もありますが、年に1回はその時の自分の興味を引き出してくれた場所に出向いています。
Q:買い付けでのマイルールはありますか?
今のアンサンクは、“異国感が感じられるもの” “女性らしさを約束してくれるもの” “気持ちが揺らぐもの”という3つを軸に買い付けを行っています。私にとって買い付けも“モノ選び”という表現の一つですね。そう感じたのも買い付けの回数を重ねていく中からですけど、どことなく物作りと似ているんです。終わりの見えない感覚の中始まって、帰国する。集まった物たちを店内へ並べてやっと作品がひとつ完成!みたいな。
平野さんお気に入りの買い付け地は、「北欧」。獲得できる品数は少ないながらも、上質で好奇心をそそるチャーミングな品が多いのだとか。
Q:お店の世界観のルーツは?
やっぱり自分が「かわいい」と思えないと選べない。買えない。そうやって「自分の中の純粋なかわいい」を頼りに直感で選んで集めていったら、今のこの女性らしい世界感が生まれました。どうやら、私の母も可愛いものが好きみたい。母が来店すると「昔持っていたなあ、こんな感じのブラウス、取っといてあげればよかったね」みたいな言葉をよく聞きますから。父方の祖母も個性的なものが大好きだったので、遺伝子には逆らえないなと感じています。
Q:モノ選びの決め手は?
モノを選ぶ時には、目が止まった時の「あ、私のお家来る? じゃあ一緒に帰ろう」という直感と、作り手の熱い想いや優しさに感動した時、ストーリーのある奥深い品物に出会った時など、選ぶのは早いけれど、決め手はひとつじゃない気がします。上手く言えないですが、多分、毛細血管みたいな細かな感情が存在していて、お迎えするかどうか瞬間的にピピピッっと多数決しているみたいな感覚ですね(笑)。
Q:平野さんのファッション観は?
今、正直、ファッションという言葉にピンとこなくて。ただ、もう少し歳をとった時に、自分の魅力が滲み出るような装いが出来ればいいなと。植物のように自分自身の根っこを見て整えていく。元々持ち合わせている自分の個性をより大切にしたいなと。ただ、スタイルでいうと女の子の甘さみたいな部分はいつも大切にしていたかも。メンズサイズのトップスには白いスカート合わせるとか、太めのデニムにはピンヒールとか。ずっとそうゆう温度感を楽しんでいる気がします。根は乙女なんです、実は。それを隠せなくていつもどこかに忍ばせちゃう(笑)。
Q:平野さんにとって自分の価値観とは?
モノ選び同様、一つに決まっておらず、私の価値観はいくつも存在していますね。そもそも枝分かれしているんだと。生きてきた分、大事にしているものが小さくいっぱい集合してそれが一つの箱に入っているみたいな感じ。枝分かれしている事を大切にしつつ、その都度、訪れる新しい体験によって流動的に小さな価値観の入れ替えがある事でちょっと違う感覚を身にまとった自分に変化することができる。そんな箱の総称が私の価値観です。その時その時で大事にしたいものを主役にして、生活したり表現したりする。これだと決めずに色んな模様の価値観を楽しめるっていいなと思うんですよね。
Q:最後に平野さんの思う、今後への思いは?
お店作り、物作りを通して伝えたいことはずっと変わりません。モノを買うというよりは異国の気配を買う。手仕事の温かみを手に取るという感覚。そうゆうロマンチックな詩の1小節を描くような感覚でこれからも素敵な出逢いを届けていきたいです。モノが溢れる時代だからこそ、モノと出会う時の目に見えない瞬間や気持ちを少しでも人生の中に取り入れてもらえたら、嬉しいです。
PROFILE
平野みかほ/ヒラノミカホ UNCINQ -vintage&handwork- 店主。年に数回の買い付け、オリジナルブランドcigogne (ジュエリー) / perna. jewelry (ジュエリー) / yoyo (アパレル・ライフスタイル) / valo adornments (コンテンポラリーヘアジュエリーブランド) の企画、製作など活動は多岐にわたる。
Instagram : @uncinq_boutique