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Kastaneが恋する人たち / 松尾愛理紗さん (後編)

好奇心と憧れ。かけがえのない人たちとの出会いが、いつだってわたしたちの感性を刺激する。だから、また誰かをすきになる。Kastaneが恋するイノセントで魅力的なひとたち。第6回はMEKEARISA founder / 編集ライターの松尾愛理紗さん (後編)。

2020.11.23AOI YOSHIDA(Kastane Press)

CONTRIBUTED BY

ARISA MATSUO

ARISA MATSUO

MEKEARISA Founder / Editing Writer

 

Q:編集者として活躍されているそうですね。

大学を卒業してすぐ就職情報サイトを運営する会社に就職しました。そこでライターやカメラマンと一緒に企業に取材に行って、インタビューし記事を作って発信する、という編集の基礎を学びました。もともとファッションが好きだったこともあり、さらなるキャリアアップを目指してファッション誌「カジカジ」を発行する出版社に転職し、「ガールズスタイル」に配属になりました。そこではライティング・撮影・リースなど、制作をすべて自分ひとりで行う機会もたくさんあったんです。もしかしたら関西の出版社特有なのかもしれませんが、雑誌作りやものづくりをオールラウンドに経験し、圧倒的にキャパシティーが増えたことが、今の自分に繋がっていると実感しています。 

 

Q:シンガポールへ移住したのはなぜですか?

シンガポールに憧れがあったわけではないんです。もともといつかは海外へ行きたいと思っていたのですが、たまたま1人でシンガポールへ遊びにいく機会があったので、「せっかく行くなら」と思い立ち、面接の約束をとりつけて履歴書を持って向かったんです。なので、そのまま採用が決まって移住を決めた、というのが実際のところです。主食が米の食文化や靴を脱いで部屋にあがるスタイルなど、日本人の私にとって馴染みやすいライフスタイルと、就労ビザのことなどを含めて地に足がついた現実的な路線で考えたとき、シンガポールという国は自分にぴったりだったことも決め手のひとつでした。

 

Q:シンガポールではどのような活動を?

日本人向けのフリーマガジンを発行する会社に就職して、シンガポールでも編集とライターの仕事をしていました。でも、当初は日本で経験してきた雑誌の作りとの違いに驚いたし戸惑いました。わたしは自由なコラムやシンガポールの魅力を伝えられる編集記事をたくさん書きたかったのですが、そのフリーマガジンは広告によって印刷費や会社そのものの収益をまかなっていることもあって「フリーマガジン」にも関わらず、わたしにとっては「フリー」ではなかった。経営陣との距離もかなり近かったぶん、狭いシンガポールで会社が生き残っていくための現実を目の当たりにしたし、媒体そのものも、自分自身が理想としているゴールに近づけることが難しかったんです。そうして1年目が終わる頃、「自分で本を作りたい!」という気持ちが芽生え始めました。日本で発信されているシンガポールの印象と自分が住んで感じた印象が違っていたり、新しい発見もたくさんあったから、週末を使って本当に自分が創りたい本『POCHI.BOOK』を作り始めました。

 

 

Q:面白そうですね! どんな内容なんですか?

「POCHI.BOOK 」の「POCHI.」 はスイッチやクリックの時の効果音なんです。「ポチっちゃおっかな〜」のポチ、です。渡星したばかりの頃に「POCHI.」って名前のブログを立ち上げたんですが、その時のコンセプトが「誰かの何かのスイッチを押すきっかけになりたい」だったんです。シンガポールに渡った理由やローカルフード、アジアを回った旅行記などを発信することで読み手にとってのスイッチになりたかったんです。「シンガポールに行ってみたいな」「あのローカルフード食べたいな」「あの国に行ってみたいな」という感じで。POCHI.BOOKはそのメディアの「本」バージョンという立ち位置で、一冊目は「シンガポールのローカルライフ」、二冊目は「かわいいシンガポール」をテーマに作りました。三冊目と四冊目のテーマもすでに決めていて、在星時代に最も足を運んだ「ホーチミン」バージョンも作りたいと思っています。ゆくゆくは大阪・枚方バージョンも作ってみたい(笑)。

 

Q:その驚くような行動力は誰かの影響受けている?

ありがたいことに、自分の「行動力」を褒めていただくことが多いのですが、自分ではそんな大したことをしている自覚はないんです。誰かに影響されたというよりも、「自分に負けたくない」「とにかく後悔したくない」という気持ちが人より強いんですね。わたしは「究極のわがままで、かつ頑固者」なんだと思います。「欲しいものは欲しい、会いたい人には会いたい、行きたいところには行きたい、やりたいことはやりたい」。もしそれができなかったら、きっとずっと後悔することになる。たとえその願望が達成できなかったとしても「できなかった。つらい。悲しい」で終わらせたくないんです。それじゃただの「できなかった損」になるから。それならまずはとにかく挑戦した方がいい。たとえ失敗したとしても何か見えてくることがあるし、それを糧に次の目的に向かって進めばいい。その挑戦がたとえ予定の航路から離れていたとしてもかまわない。とりあえず進んでいるってことだから。そうすれば損したっていう気持ちも、自分の時間と体力がもったいないっていう気持ちも生まれないし、むしろ「あのとき出来なかったでよかったんだ。ハッピー!」って前向きになれる。編集部に転職した時も、シンガポールで面接に行った時も、日本に帰国した時も、お店を出すって決めた時も、なんだかんだ、そうやって生きてきた気がします。

 

 

Q:そのチャレンジ精神で「MEKEARISA」というブランドもスタートされたんですね。

私が住んでいたシンガポールって実はすごくいい場所にあるんです。東南アジア諸国のベトナム・タイ・インドネシアなどに、約1時間半ほどで行けてしまう。東京と同じくらいの面積しかない小さな国なので、週末のアクティビティといってもすぐ尽きてしまうから、暇つぶしと言ってはなんですが週末や連休などに近場の国によく遊びに行ってたんです(笑)。シンガポール人の今の夫が旅の相棒だったので、プランを練る時、検索のベースがすべて英語だった。すると不思議なもので、自動的に日本人がほとんど行かない「未開拓エリア」に辿り着く。何度もそんな旅をしているうちに、日本では見つけることのできないアイテムとたくさん出会いました。そうやってかわいいアイテムがたくさん集まってきたら、今度はどこかでお披露目もしたくなる。それなら「帰国するときに持って帰ってみよか〜」という感じであまり深く考えずにあれこれアイテムを集め始めた、というのが「MEKEARISA」をスタートしようと思ったきっかけですね。それから一時帰国のタイミングで大阪で小さなPOP UP SHOPを開催しました。その後、「baseyard Kastane」でイベントを開催する機会をいただき、それが好評だったことで本格的にこの仕事に注力しようと決めたんです。もちろん最初は不安もありましたよ。けどシンガポールに住んでいる日本人のフォロワーの反応がよくて、自分が「かわいい」と思う感覚が、決して独りよがなものじゃないんだという自信が生まれたことが大きかった。

 

 

Q:シンガポール以外で印象に残っている国は?

物価の安さやときめくものが多いという意味では、圧倒的にベトナムですね。女子旅の行き先として人気なのも理解できます。フランスの植民地だったベトナムは、シンガポールとはまた違う魅力がたくさんあるように感じました。フランスらしさを感じる建物たくさんあったり、シンガポールほど街や道路が整備されていなくて砂埃が多いのからなのか、いい意味で都会のギラギラ感がなくて、キャッチーな日用雑貨やローカルフードが多い。薬味やスパイスを使ったシンガポールの料理に比べ、ベトナム料理はやさしい味でクセがなく食べやすいのも「なんかいいな」って。ベトナムの街や料理、人柄から垣間見た「整えられすぎていない素朴さ」みたいな部分をとても気に入っています。そもそも私は、国だけじゃなくモノや人が相手でも、そういう素朴な一面にときめくタイプなんだと気付かされました。

 

 

Q:アイテムをバイイングする時の決め手は?

ビビビッっと一目惚れでバイイングする場合もありますが、このアイテムをどう工夫したらもっとその国そのものに興味を持ってもらえたり、魅力あふれる一面が見せられるかということを常に考えるようにしています。シンガポールやその周辺国の雑貨は色づかいが原色だったりアクが強すぎたりして、そのまま日本へ持って帰ってきても使うのが難しいアイテムも多いんです。 

 

Q:「メケアリバッグ」のイメージが特に強いですよね。

2018年2月にはじめて大阪で開催したPOP UP SHOP では「POCHI.BOOKを体現できる空間を作ること」が一番の目標でした。だから、お皿、石鹸、バッグなど、シンガポールでの暮らしの中で出会ったさまざまなアイテムをバイイングしてきたんですが、その中でバッグの反応が特に良かったんです。

 

Q:そうなんですね! では、今後考えている企画は?

メケアリバッグに変わる看板アイテムを作る、もしくは見つけたい。自分は「選ぶ力」はあっても「創るセンス」はまだまだだなと自覚していることもあって、そうした自分のマイナス部分を補うという意味でも、アジア雑貨だけに留まることなく、あらゆる旅先で心がときめくアイテムをできるだけたくさん集めていきたいと思っています。

 

 

Q:どんなことでもご自身の価値観を大事にされていらっしゃる印象ですね。

自分の価値観を大切にするということは、その瞬間の自分が「何者でもなく自分である」ということを認めるということですよね。「自分らしく生きるための判断基準」のようなものですよね。最近気づいたのですが、人の価値観って、きっかけがあれば意外と簡単に変わるんです。10代や20代の頃にタブーだと思っていたことでも環境が変わっていろんなことを経験した今なら「別にそれくらいいいんじゃない?」って思えるようになったり。人によってはファッションや恋愛のスタイルだって、ちょっとしたきっかけで180度変わることもある。

価値観は人それぞれで、もちろん急に変わったりもするけど、それを無理に変える必要もないし、誰かから強要されるようなことじゃない。価値観が「自分らしく生きるための判断基準」なのだとしたら、まずは自分を認めたり、愛したり、知ったり、向き合ったりすることを生きていくうえで一番大切にしたい。どんな時に嬉しいか、どんな時に悲しくなるか、何が好きで何が嫌いか、どんな人間になりたいか、どう生きたいか。自分自身と正直に向き合って、自分を知る。そんな風にして少しずつ価値観を育てていくと、人としても成長していける気がします。

 

 

Q:将来の夢、今後の展望はなんですか?

2021年春にショップをオープンする予定なので、まずはお店を軌道に乗せることですね。実店舗もPOP UP SHOPと同様にバッグをメインに展開する予定ですがMEKEARISAのアイテムだけではなく、お花屋さんとのコラボやワークショップなどいろいろ仕掛けていきたいです。「今月はどんな楽しみがあるだろう?」「どんな新しいこと、かわいいものに出会えるだろう?」とたくさんの人にワクワクしてもらえる存在になることが目標。単にお買い物をするための場所ではなくて、国内外からいろんな人を呼べるお店、人と人のコミュニティスペース、人とモノ、コトをつなぐことができるのが理想のお店のかたちだと思うんです。そこにMEKEARISAの世界観がマッチして、深みが出たらとても幸せです。

 

あともうひとつ。これは大きな野望ですがワールドツアーに挑戦したいです!!

シンガポールでの開催はマスト!そのほかの国を挙げるとするなら、フランス、台湾、そして韓国。

フランスはシンガポールで出会ったフランス人の友人がいるから、とにかく彼女に会いたい(笑)。ヨーロッパの人がメケアリバッグを持ったらどんな佇まいになるだろうっていう興味と、フランスの街並みだったらどんな風に見えるんだろうって好奇心もありますね。台湾の人々は日本人と好きなものが似てそうだし、開催したら喜んでいただける気がしますし、韓国はただただ韓国が好きだからです!(笑)

 


 

Q:コミュニティスペースってどんなイメージ?

繋がりをもっと増やしたいと考えていますが、わたし一人のアンテナでは、広がりや成長に限度がある。好みや偏りがあってこそブランドらしさが生まれることは理解していますが、コミュニティスペースとしての存在価値を考えると、自分たちの損得だけこだわらずとにかく人の役に立ちたいですね。場所を提供したり、人を紹介したり、サービスを提供したり。「MEKEARISAに行けば、なんかヒントやアイディアやいい企画がもらえるかも!」とか、「なんか知ってそう!」とか。そうやっていろいろいろいろな人を巻き込みながら、たくさんの人々のお役に立てる場所にしたい。それと枚方という街やお店の立地的にもローカルな住宅街に位置していることもあって、町おこしや地域の活性化という観点からも注目していただける存在になりたいと思っています。