好奇心と憧れ。かけがえのない人たちとの出会いが、いつだってわたしたちの感性を刺激する。だから、また誰かをすきになる。Kastaneが恋するイノセントで魅力的なひとたち。第8回はSYAN director / 米澤香央里さん(後編)。
2020.12.27AOI YOSHIDA(Kastane Press)
CONTRIBUTED BY
KAORI YONEZAWA
SYAN Director
Q:美容師を目指したきっかけは?
以前は美容師よりもヘアメイクをしたい気持ちが強かったんです。表舞台に立つアーティストというよりも、職人気質なんだと思います。だから「ヘアメイクアーティストになりたい!」というより、制作者として関わりたい気持ちが強かった。高校生の頃はADや音響の専門学校も検討していたくらいですから。
ちなみにその頃は美容室へ行くのが苦手だったんです。カットが終わって鏡を見たときに、全然イメージ通りにならないことが多くて家でよく泣いていました。「お気に入りの切り抜きを持って行ったのに!」って(笑)。自分みたいな人が少なくなればいいのになって思ったことは、美容師になったひとつのきっかけですね。自分自身が技術を身につけて、施術以外でも楽しんでもらえる空間を作って、鏡を見せせたときに心から喜んでもらえるようになりたかった。
Q:サロンで働いてみてどうでした?
最初に就職したサロンはタイミングが悪く、ヘアメイクを学べる環境があまり整っていなくて思い描いていた理想とはかけ離れていました。でもスタイリストになるまでは続ようと決意して、3年半でスタイリストデビューして退社しました。その後、諦めきれなかったヘアメイクのスキルを学ぶため、資生堂のヘアメイクスクール“SABFA”へ通いながら、CMで活躍していたヘアメイクアーティストのアシスタントについて技術を学びました。別のサロンで美容師やレセプションとしての経験も積んでいく中で、29歳を迎える頃、ワンランク上目指そうと、もう一度美容師として復帰したんです。
Q:それはどうして?
私の世代は「雑誌世代」だったのですが、その頃はヘアカタログとか美容師が雑誌で取り上げられている事が多かったんです。恥ずかしながら29歳にして雑誌に載りたいという気持ちが芽生えてきて(笑)。1年間は収入や年齢などのプライドを捨て、すべて1からやり直しました。そのタイミングでSYAN立ち上げメンバーにお誘いいただいたんです。その時その時の体験や人との関わりによっていろいろな興味が湧いてしまう性格なので、美容業界で働く過程でも気持ちに大きな変化がありました。
Q:自身で作品の撮影もされるそうですね。
以前は別のスタッフに撮ってもらっていたのですが、5〜6年前に社内のフォトコンがあった時「これは自分でやらないと意味なくない?」と言われたことがきっかけで、カメラの基本を教えていただいて自分で撮影してみたんです。そしたらめちゃくちゃ楽しかった! 自分で撮影すれば一番撮りたい作品が創れることに気づけましたし、女性目線で“女性が一番可愛い”と思える瞬間を表現できるようになりました。初めて自分で撮影したときの興奮は今でも忘れられませんね。
△米澤さんが自身で初めて撮影されたときの作品
Q:写真展を開催したきっかけは?
もともと4年間撮りためた作品で写真展を開催できたらなと考えていたのですが、そんな時にタイミングよくhair accessoryの企画と一緒にイベントを開催するお話しを頂いたんです。「地道にやりたいことを続けていれば、夢が叶う瞬間があるんだ」と感動した記憶が、今でも鮮明に蘇ってきます。女性の美容師は特に出産や結婚でなかなか思うように仕事を続けられないことも多いですが、「こんな生き方や仕事との向き合い方もある」ということを女性の美容師さんに向けて発信できればいいなと考えて参加させて頂いたんです。私は、「やりたいことを貫き通し、それを続ける努力をした人は必ず夢をかなえられる」と信じています。チャンスは誰にでも訪れるものですから、その波に乗れるかどうかは自分自身の日頃の準備次第だと思っています。どんなことでも次のステージへ進むためには、日々の小さな努力こそが大切だといつも肌で感じています。
Q:写真展開催後の反響は?
サロンへ足を運んでくださるお客さまや外部のヘアメイクの撮影依頼など、仕事の幅が大きく広がりました。それと同時にひとつひとつの仕事とさらにていねいに向き合う必要があると感じました。だから、限られた時間の中でできる限りお客さまに喜んでいただけるような仕事ができるよう、どんな仕事も毎回勝負をかけて挑んでいます。また一緒に仕事がしたい、また髪のデザインをして欲しいと思っていただけるように。
Q:人生で大きな影響を受けたことは?
25歳くらいの頃に、仕事のモチベーションが上がらない時期があったんです。毎日仕事終えたあとに店長にご飯に誘われ、毎回「人に興味がないよね、人の話を本当に聞かないよね。」って言われていました。その頃はレセプションとしてバイトしていて「早く辞めて美容師に戻れ。ここにいるべきじゃない」とも言われて、自分を分析されているような感じでした。褒められたことよりも、こういう厳しい言葉の方がずっと記憶に残ってますね。「人の言葉を聞き流しまう人と、引き出しに入れて自分の言葉にする人間では、その後の人生に大きな差が生まれる。だからそういう人になれ」と店長に何度も言われてましたが、その言葉の意味を本当に理解できたのは30代に入った頃でした。今は誰かが「素敵な言葉を言ってたな」と思ったら、自分の言葉に変換してストックしちゃいます。アレンジして自分の言葉や価値観として再構築するように。
Q:その店長は今の米澤さんの気持ちを知っている?
その方は独立して福岡に出店されていますが、私が今こうやって美容師として働いていることがとても嬉しいようで、今でも東京へ来る時には連絡をくれてたくさん褒めてくれます。それが私も嬉しくて「あの時言ってた言葉の意味がようやく理解できました」と感謝の気持ち伝えました。
Q:嬉しかったでしょうね。辞めるだろうって思われてたのかもしれませんね。
そうですね。専門学校の先生にも「米澤が一番最初に辞めると思った」と言われました。学校の成績はほとんど最下位だし。デッサンの授業は絵が下手すぎて、同級生に笑いながら「これ、もらって帰って良い?」とか言われたり(笑)。働き始めた20代の頃はずっとそういう風に言われてましたね。だから29歳の時に、自分を変えようと気持ちを奮い立たせたんです。
Q:一番喜びを感じる瞬間は?
撮影の時、自分が納得のいくスタイルができたら胸が「キュッ」て高鳴るんです。その瞬間は「この仕事をやっていてよかった」と心から思いますね。お客さまの人生に寄り添う仕事なので、今1番長いお付き合いだと12年くらい担当させて頂いているお客さまが何人かいて、「就職・結婚・出産」など人生の節目節目のタイミングに寄り添うことができました。その中の1人、学生だった方が母になって子供と一緒に美容院に来てくれる姿を見たときは、感動して泣けてきました。そんな風に、サロンワークというのは、喜びを感じる瞬間がとても多い仕事だと思います。
先日UN CINQ -vintage & handwork-の店主である平野みかほさんとKastaneのバイヤーの成田麻美さん、それともうひとりの共通の友人と食事へ行く機会があったのですが、ふと冷静に考えてみると「ちょっと待って。私この全員と仕事してるじゃん!」って思いました。大切な友人とこうして仕事で繋がりを持てていることがとても嬉しい。仕事もプライベートも関係なく、人と触れ合うことそのものが私の一番のエネルギー源なんです。
Q:平野さんとは最近ブランドを立ち上げたそうですね?
自身の写真展を開催したときに、手作りの写真集を300部製作したのですが、自分の作品だけでは限界を感じたんです。そこでヘアメイクに関連したアイテムが欲しいなと思い、2020年8月に平野さんとコンテンポラリーヘアジュエリーブランド“valo_adronments“を立ち上げたんです。最初は自分でアクセサリーを作ろうと考えていたんです。でも私はアクセサリー製作の知識も乏しかったし、平野さんに相談してみたんです。彼女はブランディング力が高く、ストーリを考えるのが本当に上手なんですね。例えば「ヴァロアドーンメンツ」というフレーズだったり、「クー」と「ペフメア」っていうネーミングだったり。物の価値を上げられる人たちが身近にいたことと、平野さんが私とが同じ温度でいてくれたことで、すぐに話が進みました。ブランド名はフィンランド語で「光」という意味。「私たちのプロダクトが、誰かの小さな光の破片になる。砂浜でキラッと光るガラス石を見つけた時のようにワクワクする気持ちを届けられたらと、平野さんが私をイメージして名付けてくれました。第一弾は2種類のヘアカフを販売しています。制作を担当していただいた”SAWAKO KATAOKA”さんには、私たちの想いを形にしてくださり心から感謝しています。
Q:今後の展望や夢をお聞かせください。
もうすぐ40歳になるので、また自分にとっての新しいステージを考えたい。毎年、胸を張って「今年はこれをやった!」と自信をもって言えることをやると決めていますが、その気持ちはずっと変わりません。例えば一昨年なら写真展の開催、去年は富山で美容室イベント、今年はvalo_adornmentsの立ち上げ。今後も枠に捕らわれず、創り手としてワクワクするような仕事をしていきたい。「40歳を迎えたとき、何を幸せと思えるのか」。もしかしたらそれは独立なのかもしれないし、サロンワークをスローペースにしてもっと物づくりとか人との関わりを増やしていくことかもしれない。お洋服に関わる仕事もやってみたいし、そこからまたヘアやメイクに繋がる新しい発見が生まれたら楽しそう! 自分の人生に後悔はしたくないから、いろいろなことに挑戦して、吸収して、自分自身の人間としての深みを出していきたいと思っています。
profile
米澤 香央里(よねざわ かおり)
千葉県出身。日本美容専門学校。資生堂SABFA。
都内3店舗を経て、2012年よりSYAN Directorに。雑誌撮影の他に、ブライダル、アパレルルック、アクセサリーブランドを立ち上げている。