好奇心と憧れ。かけがえのないひとたちとの出会いが、いつだってわたしたちの感性を刺激する。だから、また、誰かを好きになる。Kastaneが恋する、イノセントで魅力的なひとたち。第4回はアクセサリーアーティストの三枝夕美さん(後編)。
2020.09.15Aoi Yoshida (Kastane Press)
CONTRIBUTED BY
YUUMI SAIGUSA
Accessory Artist
Q:影響を受けたファッションは?
中高校生の時から、インドの服みたいに洗濯すると色落ちしてしまう服なんかをよく着ていました。好きなものはずっと着ることが多いですね。母親はアンティークが好きでしたし、なによりおばあちゃんがアーティストだったので、その影響が一番大きいかもしれないです。彼女は日本画を描くんですが、服装は普通なのに、今思えば中身がかなりぶっとんでた(笑)。私もそういう感性を受け継いでいるのかも。
Q.ここ数年、NYで活動されていたんですか?
2年前にカテゴリを広げたくて活動の拠点をNYに移したんです。「1年目は学生ビザで、ちょっと地に足を着けてじっくり様子を見ながら、3年目にアーティストビザを取得して…」とかあれこれイメージしていたんですが、実際にはもろもろ問題があって、優雅なことを言っていられなくなった。最初の1年は「通っていた学校が歴史ある学校だったのに途中で潰れた」とか、「住む場所を騙された」とか、なんだかいろんなことを呼び寄せてしまって。1年で10年分くらいの経験をしましたね。それでも仲間がいろいろと助けてくれて、かけがえのない信頼を感じることができたことは、逆に素晴らしい気づきになりました。2年目にビザを切り替えるために帰国したんです。
Q.もともとNYに縁があった?
80年代、19歳の時にロンドンに住んでいたことがあって、その頃は「NYに行くのがかっこいい」ってムードだった。けど私はその流れに乗れず、日本に戻ってきた。呼ばれなかった、という感じかな。でも2年前、自分もそこそこの年齢に達してきて、今なら最後のエネルギー振り絞って行けるかなって思えたんです。周囲の環境的にも行けそうな感じだったし。チャレンジしないでモヤモヤしているよりは、ちゃんと一回経験してみたかったから。決心してから2ヶ月で家のものをすべて片付けました。みんなに配ったり売ったりして(笑)。 でも実際には「自分のイメージ」に誤差がありました。19歳の時と今とでは、そもそも体力が全然違うんです。若い頃みたいに何でもハングリーに取り込める自分じゃないということが、新たな気づきでもありました。怖いもの知らずだったのが、「ちょっと待てよ」って。慎重な割には騙されたりしたけど(笑)。NYに着いて2週間でわかったことは、旅することと住むことは、全然違うってことですね。とにかく自分も主張しないといけない。勝ったものがどんどんステージに上がれて、ダメなものはどんどん脱落していく。みんなつねに競り合ってる。やっぱり得るものは多いし、可能性もたくさん秘めてると思う。ちょっとした出会いで、昨日と今日が180度変わるから。NYではとにかくアイデンティティが確立できていないと負けなんです。すごいです、誰もが狼みたいに食いついて。でも、私はそうはなりたくないなと思った。逆に、日本人らしい繊細さや気遣い、思いやる心みたいなものを忘れちゃいけないなと思うようになりましたね。 だから今は、若い時なら何がなんでもって感じだったのが、「流れを自然に受け入れる方がいい結果が生まれたりするのかな」と思うようになりましたね。先が見えないのも逆に楽しみになったりね。行動を起こさなきゃ何も変わらないことも学んだし、いろいろと強くなりました。ただ、私も行かなければわからなかったので…。NYは自分を試すには本当にエネルギッシュだしやりがいはある素敵なところです。
Q:制作面での刺激はありましたか?
NYという街では、競り合いはすごいけれど、実際は全員が最後まで100%じゃないんです。つまり、魅せ方やプレゼンテーションが上手な人が多くて、実際の仕上がりをよく見るとラフなところが多かったり、最後までこだわってない人が多いって感じた。だから、実際のところ、制作という面だけなら、これなら私、全然やっていけるなと思いました。ただ作った作品を「どう見せていくか」という課題は大きいですね。
Q:自分の人生に影響を与えたものはなんですか?
旅ですね。とにかく旅が大好きなんですが、特に印象に残ってる旅が2つあります。8年前のインドと、その2年後に行ったセドナ。インドは激しい貧富の差を目の当たりにして色々考えさせられることがあり、自分の人生について改めて深く考える機会になった。人生観が一気に変わりました。セドナの方は、もともとネイティブアメリカンのカルチャーに魅力を感じていたこともあって旅してみたのですが、広大な大地をサイクリングしながら見つけたコミュニケーションセンターで、ネイティブアメリカンのおばあさんが作った特別な工芸品に出会ったり、まるでその場に自分が「呼ばれた」ような気がした不思議な旅でした。 どちらもそんなに気軽には行けない場所だったこともあって、強く心に残っています。そうした旅を経て、勝手に自分の中で抑えていたものからするりと抜け出せたような感覚になりました。それが今の自分のデザインにも強く影響していますね。以前は「私らしくないものは作りたくない」って感じだったのが、いろんな意味で「カテゴリ」が広がりました。それまでそれほど自然について真剣に考えたことはなかったけれど、絶対に裏切らないものってあるんだなって感じた。旅をすることで、言葉では言い表せない何かが自分の中に確実に落とし込める感覚があるんです。 でもそろそろ賞味期限も切れちゃうので、また旅に行かないとね(笑)。
Q:一番大切にしている価値観は?
「受け入れること」かな。嫌なことも、辛いことも。前はそういうことにはできるだけバリアを張ってたけれど、今は受け止めて、一回砕いてみるようにしています。すると思ってもみなかった考えが生まれてくる。受け入れることで、視野が広がるので、楽になるんですね。 それともうひとつ大切にしているのは、自分が一番リラックスできる、好きなものに囲まれていられる空間を持つこと。ひとつひとつ小さなものまで納得のいくものを見極めて置きたいタイプです。好きなものは時代によって変わることもあるけれど、ずっと変わってないのは自然の素材が好きってことかな。
Q:買い物をする時の決め手はなんですか?
欲しいと思ったら、それしか見ないこと(笑)。自分の大切な空間に、嫌いなものは置きたくないもの。妥協したくないので、値段はあんまり関係ないですね。
Q:将来の夢、今後の展望はありますか?
今の自分をとりまく環境が本当に幸せなので、好きなことに向かって実直に突き進み続ければ、なにかしらカタチになっていくんだなって感じています。理想をいうなら、お客さまに長く喜んでいただけるアイテムを提供したいですね。手に入れた瞬間の喜びだけじゃなく、末長くお付き合いしていただけるようなものづくりを目指していきたいです。 個人的には、自分にしかできないことをしてみたいかな。「この人に頼めばなんか面白いことが生まれそう」って存在なれたらうれしいですね。アイデア相談所、みたいな(笑)。NYのアーティストを巻き込んで、私なりのフィルターを通して面白い発信をする、とか。どんどん人を巻き込んでいきたいです。そういう出会いによって思いもよらない新しいものがどんどん生まれて、今度は自分が巻き込まれて。そんな風に、誰もがお互いを尊重し合って、ものづくりを楽しんでいけたらいいなと思います。
PROFILE
三枝夕美(さいぐさゆうみ)/ 東京出身。19歳の時に渡英。ロンドンの美術学校で陶芸を学んだ後1995年に帰国。2000年よりアクセサリーブランドUANDMI31WORK(ユーアンドミ・サンジュウイチワーク)をスタートさせ、オーストラリアでも活動。2003年に拠点を日本へ移しメンズ、キッズ部門を立ち上げ本格的に始動させる。2017年より"Simple lives is natural spirit"をコンセプトにライフスタイルや空間にフォーカスをしたライン31work creationをスタートさせる。2018年より拠点をニューヨークに移し現在東京でも活動中。Instagram : @31workcreation
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